恋のカルテ
このタイミングでかかってきたということは、どうせあのことに違いない。
五十嵐先生は分かってくれたのに、この人は許さないのだろう。
私は鳴りやまないスマホに、仕方なく人差し指を押し付ける。
「……もしもし」
『おい、高原。今どこにいる!』
「どこって、タクシーの中ですけど」
『よし! そのままマンションいこい。五十嵐先生の誘いを断れる身分じゃないのは分かってるよな』
……なにが「よし」だよ。身分不相応なのも重々承知してますってば。
心の中で悪態をつき、私は今から圭人の仕事の関係で、園部総合病院の医院長と会食することになっていると話した。
本当は会社の情報を漏らしてはいけないのだろうけど、そうでもしないと、納得してくれそうになかったから。
「だから、五十嵐先生には申し訳ないんですがお断りしたんですよ。それと、この話は口外しないでくれます?」
「だめだ、行くな高原!」
電話口で先生が叫んだ。
「だから、そういう分けにはいかないんですってば」
うんざりしながら答える。
「まて、そうじゃない!」
「いい加減にしてください。じゃあ、私急いでますんで」
終話ボタンを押すと、すぐさまなり出したスマホ。私は大きなため息を吐いて、電源を落とした。