恋のカルテ
大きな通りから一本路地を入った所にその料亭はあった。
高い石壁にぐるりと囲まれていて、入り口がどこにあるのかよく分からない。
タクシーの運転手は政財界の要人が多く利用するのでこういう造りになっているのだと言っていた。
「どこにあるんだろう、入り口」
塀の奥から伸びている数本の竹が、夜風にその葉を揺らしている。
ざわざわと鳴りやまない葉の音に、私の心も同調するように騒めき出した。
さっきの電話、なぜか引っかかる。
最後の方の先生の言葉。五十嵐先生の誘いを断ったことを責めているんだと思っていたけれど、もしかしたら、何か別のことが言いたかったのかもしれない。
気にはなったが今更確かめるわけにもいかない。
私は塀伝いに歩いて、ようやく入り口を見付けた。
店の中に入ると、和服の女性が出迎えてくれた。
圭人たちはまだ到着していないようで、私だけお膳が並べられたお座敷に通される。はなれになっているのか、とても静かだ。
ここが都会のど真ん中であることを忘れてしまいそう。