恋のカルテ

 少しすると、談笑する男の人の声と、足音が近づいてくる。

「お連れ様がお見えです」

そう声をかけられて、私は入り口の襖を向いて立ち上がった。

中に入ってきたのは圭人と、四十代後半の男性。園部紀嗣だ。

高級そうなスーツとプンと香るオーデコロン。日焼けした肌と長めの黒髪。その風貌医者というよりは水商売のそれに近い。

「初めまして、高原と申します。本日はこのような席に同席させていただきまして、大変恐縮しております」

深々と頭を下げると嘲笑にも似た声が降ってくる。

「ずいぶんと緊張しているんだね。かわいいんだけど、そういう挨拶はいらないんだよね」

「……あの」

「女の子はね、こんばんはって言ってニッコリ笑ってればいいの。やり直し」

「やり……直し?」

ポカンと口を開けた私に、圭人は「いわれた通り、挨拶するようにと」急かす。

「こ、こんばんは。園部医院長」

ちゃんと笑えただろうか。

「六十点だね」

園部医院長の失礼な物言いに、私はカチンときた。

おそらく顔に出ていたのだろう。すかさず圭人が割って入る。

「六十点! ありがとうございます」

「でも、この子不満げだよ」

「そんなことありませんよ、院長。ささ、どうぞお座りください。先生のお好きな清酒をご用意いたしましたから」

「ああそう。途中でワインも飲みたいんだけどさ」

「もちろんご用意いたします」

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