恋のカルテ
一時間ほど走っただろうか。大きな総合病院に車を停めた先生は、エレベータに乗り込んで最上階のボタンを押した。
もしかしたら初めて訪れる病院ではないのかもしれない。最上階につくと慣れた様子でナースステーションに声をかける。
「お久しぶりです。院長の病室は何号室ですか?」
「先生、ご無沙汰しております。麻生院長の病室は1001号室です。急性心筋梗塞で、カテーテル治療を終えて先ほどお部屋に戻られたばかりです。命に別条はございませんので安心ください」
「そうですか、ありがとう。……加恋。1号室だって。行くよ」
歩き始めた先生の後を追う。
「あの、院長って」
「オレの父親、医者なんだ。いってなかったっけ?」
「きいてません」
そんな話は初めてだ。先生のご家族の話と言えば、お継母様の話だけ。
「そっか、話してなかったか」
先生は歩きながら私に話をしてくれた。
ここ麻生総合病院はお継母さまの曾祖父が開いた病院で、今はお継母さまが理事長をしているそうだ。
どうして名字が違うのかと言えば、先生のお父様は再婚して麻生の婿養子になったけれど、連れ子である先生は、麻生の姓には入れてもらえなかった。……ということらしい。
「継母は医者じゃないけど、かなりのやり手でね。施設や病院を買収したり吸収合併したりと、法人全体の収益はぐんと伸びた。でも、やり口が強引でね……、魔女って呼ばれてる」
「……魔女」
継母で魔女だなんて……、鏡に向かって問いかける妖艶な王妃の姿を思い浮かべてしまった。