恋のカルテ
「もう、ほんとごめんね。みっともないとこ見せちゃって。兄さんと母さんはいつもああなんだよ」
談話室の自販機の前で買ったコーヒーを飲みながら佑樹くんは言った。
「もともとは母さんが悪いんだ。兄さんのこと家から追い出しておいて、都合のいい時だけ戻ってこいだなんてさ。そりゃ兄さんも怒るよね」
同意を求められ、遠慮がちに頷いた。すると佑樹くんは「でしょう」と笑う。
「でもね、父さんが倒れた今、兄さんが麻生の家に戻ってきてくれたらいいのにって思うんだ。……僕が後を継げればいいんだけど、医者になれるかどうかも分からないし」
佑樹くんは医大受験に二度失敗し、三度目の受験を控えているそうだ。
母親の期待を背負っている彼は、どれ程のプレッシャーを感じているのだろうか。
「そうだ、お姉さんからも言ってよ。麻生病院で働いたらどうだって。兄さんって優秀なんでしょ? 病院の士気も高まるだろうし、そうしたら父さんも少し楽が出来る」
「それは無理ですよ。私はそんな立場じゃないですから」
「そう言わずにさ。お姉さんは兄さんの恋人なんでしょ? 兄さんが女の人を連れて来ることなんて今までなかったもん。きっと特別な人なんだと思うよ。だからさー、お願い」
佑樹くんは私の手を握り、頭を下げる。
「……無理ですって。私、特別なんかじゃないですから」
「そうなの? ……あ、兄さんだ」
振り返ると、佐伯先生がゆっくりと歩いてくるのがみえた。