恋のカルテ
「あの、先生。……離してください」
「いやだ、離さない。……継母のことは、どうか許して欲しい。オレが気付いていたら、あんなことさせなかったのにって、悔やんでも悔やみ切れなかった」
「聞いたんですね」
「ああ。喜々として見合い話を持ってきた時に、おかしいと思って問いただしたんだ。悪びれる様子はなかったけどな。それからすぐ、佑樹が医大に合格したら、オレへの干渉がピタリと止まったよ」
怒りを通り越して、呆れてしまった。そう先生は言った。
「そうですか。……でも、私が先生との別れを決断した理由は、他にもあるんですよ」
むしろそちらの方が大きい。
両手を佐伯先生の胸に押し当てて、抱き寄せられている体を離そうとすると、先生は私の背中にまわした手に、さらに力を込める。
「どんな理由?」
「私見たんです。図書室で、先生がキスをしてる所」
少し考えるそぶりをして、「……ああ、あれか」と項垂れるように私の肩に頭をのせた。
「以前何度か遊んだことがある子で、付き合って欲しいって迫られたけどオレには加恋がいる。だから断わろうとしたんだ。でも、なかなか納得してくれなくて、キスしてくれたら諦めるっていうから」
「だからキスしたんですか?」
「まあ、そういうことになるな」
「私の気持ちも知らないで、酷いです」
先生は私の肩を掴んで、顔を覗き込む。
「悪かった。反省してる。これからは加恋にしかキスしないから許して」
「それ、本当ですか?」
「もちろん、本当」
頬を膨らました私の頭をポンポンと叩く。
「オレにはさ、加恋しかいないんだ。オレは、家族の愛を求めてばかりだった。満たされなくて苦しかった。でも、加恋に出会って、愛は求めるだけじゃなくて、与えるものでもあるんだって気付いたんだ」
「私に出会って、ですか?」
「そう。だって、加恋はオレがいないとダメだろう? それとももう大丈夫?」
「……大丈夫なんかじゃありません」
「じゃあ、オレの傍にいろよ」
それから先生は、ジャケットのポケットから小さな箱を取り出すと、その場に跪いた。