恋のカルテ
「健やかなる時も、病める時も、オレは一生を掛けて加恋を愛すると誓うよ。結婚しよう、加恋」
突然のプロポーズに、私は言葉を失ってしまった。
「はい」の返事すらできそうもなくて、私は先生の頬を両方の手のひらで包みこむと、ゆっくりと唇を合わせた。
一陣の風が吹き、桜の葉を揺らす。まるで祝福の鐘が鳴り響いているようだった。
「でも先生、しばらくは離れて暮らすことになるんですよね」
すると先生はゆっくりと首を振った。
「それはない。来月一日付で、加恋と同じ病院で働くことになった。今日の午後三時に院長に挨拶する約束なんだけど」
そういって腕時計を見た佐伯先生は、困った表情で私を見上げた。
「やばい、あと五分しかない」
「えっ!」
「加恋、病院まで案内してくれる?」
「はい、先生」
「あー、もうその呼び方はやめてくれないか」
「じゃあ、……朝陽さん。ついてきてください。ここから真っ直ぐ下ればすぐに着きますから」
私は先生の手を握って、草の生い茂った丘を駆け下りた。
つないだ手から伝わるのは、佐伯先生の手のぬくもり。
私はその手を離さないようにと、さらに強く握りなおした。
おわり


