委員長に胸キュン 〜訳あり男女の恋模様〜
「ピンポーン! さっすが、おに……とっとっと」

「おに?」

「な、なんでもない」

「それより、何が“ピンポーン”だ。ふざけんなよ」

「ふざけてないもん」

「……えっ?」


 真琴さんは、さっきまでは笑っていたが、今は真剣そうな眼差しで俺を真っ直ぐに見ている。確かにふざけてる感じではない、のだが……


「おい、待ってくれよ。俺は思いつきで言っただけなんだ。俺が記憶喪失だなんて、冗談だろ?」

「冗談じゃないよ」


 真琴さんは、真剣な目で俺を見たまま、低い声でそう言った。まさか、本当に俺が……?


「ちょっと待てよ。俺は過去をちゃんと憶えてるぞ」


 と言ってはみたが、実は“ちゃんと”とは言いがたい。過去を思い出そうとすると、何かこう霞が掛かったみたいでよく見えないのだ。そして、無理に思い出そうとすると頭が痛くなったりする。


「じゃあ聞くけどさ、学校の先生のこと憶えてる? どの先生でもいいし、名前だけでもいいよ」

「そんなの、当たり前だろ? えっと……」


 ゲッ。思い出せない……

 学校に先生はつきものなのに、ひとりも思い出せない。小学校はもちろんのこと、中学の先生も思い出せない。いや、高校もだ。

 さすがに今の中央高の先生なら思い出せるが、前に通っていた西高の先生を思い出せないぞ。どうなってるんだ……


「あるいは友達は? もちろん今のじゃなく、昔のよ?」

「そ、それは……」


 友達か……。それはもちろんいたと思う。ひとりもいないなんて寂しすぎるだろ。だが……ひとりも思い出せない。

 ダメだ。頭痛がしてきた……


「ごめん。もう思い出そうとするのはやめて?」

「ん……」

「体に障るから。でも、記憶がないってわかったでしょ?」


 到底信じがたい話ではあるが、俺は認めざるを得なかった。俺が、記憶喪失だという事を……

< 125 / 227 >

この作品をシェア

pagetop