嫌われ者に恋をしました
「もうそんなっ、いいのいいの。そしたら、今はこの辺には住んでないの?」
「はい」
「そっか。じゃあ、また近くに来たら寄ってちょうだい。参考書読ませてあげるから」
おじさんがケタケタ笑うと、隼人も一緒になって笑ったから雪菜はしかめっ面をした。
「もう参考書は大丈夫です!」
それからおじさんと、お互いに元気で、と言い合って店を出た。
……来て良かった。あんな風に話ができて、本当に良かった。また一つ、心の重荷が消えていった。
雪菜は隼人を見上げた。
「隼人さん、ありがとう」
「どうしたの?さっきから」
「みんな隼人さんのおかげだから」
雪菜がはにかんでそう言うと、隼人は左手の手袋を外し、雪菜の右手の手袋も外して手を握ると、ポケットに突っこんで微笑んだ。
「これって恋人の定番だよね」
嬉しそうにそんなことを言うなんて、とてもあのクールな課長とは思えない。
この定番を今まで何人にしたのかな……。
でも、今は私の手を握ってくれているから、まあいっか。だんだんポケットの中も温まってきて心地よくなってきた。
「これからどうしますか?お昼の時間もだいぶ過ぎてしまったし、ご飯食べに行きますか?」
「そうだね……。あのさ、雪菜のお母さんが働いてた所ってわかる?」
「え?……はい。なんとなくですが」
雪菜は首を傾げた。