嫌われ者に恋をしました
「急がないとね」
そうだ、旅館の送迎バスの時間に遅れないようにしなきゃ……。
「じゃあ、……行ってみましょうか」
そうは言っても、お店の名前くらいしか知らない。スマホで調べたら、まだそのお店はまだ潰れず営業していて住所もすぐにわかった。
お母さんの働いてたお店なんて、生きていた頃は行ったこともなかった。
そもそも歓楽街の国分町には近づいたことすらなかった。ネオンもお店もきらびやかで、ここはお母さんの街って感じがする。
夕日の中、少しずつ人通りが増えてきた国分町を歩いていたら、どんどん緊張して鼓動が早くなってきた。
たどり着いたビルには小さな看板がびっしりとたくさんかかっていた。目を凝らしてようやくその中に目的の看板を見つけた。
『カラオケスナック りんりん』
紫色の地に白い文字の看板。なんか、怖い。
手を握って見上げると、隼人は首を傾げて微笑んだ。
「大丈夫だよ。行ってみよう」
雪菜はうなずくと、一度深呼吸をして狭いビルの入り口に足を踏み入れた。小さくて古いエレベータに乗って4階まで行き、薄暗い廊下を恐る恐る進むと奥にお店があった。でも、まだ準備中。
「まだやってないみたいですね」
「店の人は準備で来てるんじゃない?」
隼人は取っ手に手をかけると、躊躇なく扉を開けた。……隼人さん、こういうお店にもよく行くんだろうか。
扉の鍵はかかっておらず、二人が店に入ると暗い店の奥にいた50代半ばのママと思われる女性がこちらを見た。
「ごめんねえ、まだ準備……ヒェッ!」
枯れた声のママは、雪菜を見ると目を丸くして変な声を出した。