この思いを迷宮に捧ぐ
「感謝してるんだ。黄生くんに。ごく一部の劇団員としか口もきかなかったからね」

「そう…」

妹の後姿を気遣わしげに見守る晁登に、千砂は、何と答えていいのか迷う。

「今は所在不明になった劇団員がひとりいるんだ。新入りで、彩菜が何かと世話をしていたその女の子の手引きで、彩菜は攫われた」

千砂はもう、相槌も打てなくなる。


「長い時間、暗い場所に閉じ込められて、視力が弱くなったんだ」



彩菜が、自分と目を合わせようとしないので、初めは嫌われているのかと思ったことを、千砂は思い出す。

「視力が落ちたことも辛いだろうが、俺から見ると、目をかけていた人間に裏切られたのが、何より彩菜にとっては堪えたように見えるんだ」


晁登は、そこまで独り言のように回想していたから、ふと千砂の顔を見て慌てた。

「君が泣かなくても」

少し躊躇って、そろりと伸ばした手で、千砂の頭を撫でてみた。


こうして見ていると、普通の感情を備えた女の子なのに、その肩には重責を負っているのだ。晁登は、やはり話すべきではなかったかと後悔した。
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