この思いを迷宮に捧ぐ
「ごめん。君に話す必要はなかった」


「……いいえ、私は、最も彼女の痛みを知らなければならない人間だと思うの」

その声は小さく震えていて、晁登の胸が痛んだ。


「いや、だからさ、俺が言いたかったのは、そんな彩菜でも、黄生くんには何とか言葉を返すようになったのが嬉しいってことだよ」

そう言い直した晁登の意図に気が付いて、千砂は気を取り直して小さく笑みを浮かべた。

「……なんだか、相手が黄生だってところが、本当に唯一の懸念材料ね」

「そこは兄として、妹の害虫になると思ったら、即座に駆除するのでご心配なく」

あっさりとそう言う晁登に、千砂は思わず噴き出した。晁登だって、黄生と女の子との噂は聞き及んでいるのだ。


「そうね。そのときは遠慮しないで駆除して頂戴。大体、黄生だけ好き勝手に出歩いても、何の噂も悪評も立たないのが不公平だと思うもの」

千砂がぷっと頬を膨らますから、今度は晁登が笑う。


「君は清廉潔白過ぎたんだろう。…でも、今日は噂を心配しなくてもいいね」
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