この思いを迷宮に捧ぐ
晁登の頬笑みが、切ない表情に変わって、会えない時間を耐え忍んだのが、自分だけじゃないことを千砂は理解する。


千砂をめぐる噂が、晁登の耳にも入っていることは確実だ。

だけど、それを不満に思ったり、引け目に感じたりするような発言を一切しない晁登を、彼らしく愛おしいと思う。


ただ恋人に会いたい、そう言う気持ちだけが伝わって来て、千砂は胸が痛んだ。



自然に伸ばされた大きな手に抱き寄せられて、千砂は晁登の温かい胸に頬をつけた。


「毎日初演ならいいのに」

くすくすと頭の上から笑い声が降りて来て、千砂は独り言を言ってしまったことに気が付いた。

「俺も同じことを思ってた」

恥ずかしさで俯いたままの千砂の髪を、晁登は綺麗だと思いながらそっと撫でた。


「しかも、劇団員に提案して、速攻で却下された」

「提案したの?」

「うん。毎日なんてふざけるなって言われたけど、毎月演題を変えることは承諾させた」

「えっ」

千砂が驚いて顔を上げたから、晁登は嬉しくなる。
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