この思いを迷宮に捧ぐ
自分だけが知っている、おそらく本来の千砂は、恥ずかしがり屋なうえに消極的で、あまりこちらを直視してくれないのだ。何かで驚かせたり、興味を引きつけたりすると、こうして顔を見せてくれる。


「それは大変なことなんじゃ…」

心配そうな千砂に、晁登は微笑む。

「俺は君に会うためだからきつくない。劇団員も鍛えられるし、経験値が上がっていいことづくめだ」

晁登の明るい表情を見て、自分なりの基準をしっかり持って、いつも前進していく人だと、千砂は思う。


「私も、いろんな演目を見ることも嬉しいし」

バリエーションが豊かになった煌の舞台を思う。


「あなたに会えることも嬉しい」


晁登の澄んだ目を見ていたら、思わず素直にそう言葉が零れていた。



千砂が自分の声に我に返る頃には、晁登がその唇に口付けた後だった。


「俺も君に会えるのが嬉しい」


頬をうっすらと染めた千砂の目に、自分しか映っていないことが、奇跡だと晁登は思う。



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