この思いを迷宮に捧ぐ
トントントン


不意にドアが叩かれて、千砂は身を固くする。

「陛下。事情が変わりました。急いで戻りましょう」

早口で坡留が告げたのを聞いて、千砂は目の前が暗くなった。

晁登は咄嗟に、ふらついた千砂を横抱きにして、ドアを開け、波留を中に入れた。

「廊下じゃなく、この裏へ抜けるといい。案内しよう」


坡留は見慣れない千砂の姿に面食らったものの、気を取り直して晁登の後を追った。

「劇団員が舞台や裏口を出入りする通路だ。危険はないと思うが、念のためこれを」

暗い通路の入口で、坡留は仮面をかぶせられ、千砂にはベールがかけられた。


「おっ、座長、恋人ですか?」
「ばか、稽古中だ」
「だって、稽古でお姫様だっこします?」
「トレーニング兼ねてんじゃね?」

晁登があちこちから声を掛けられているのを、ぼんやりと聞くうちに、千砂は次第に気を取り直すしかなかった。

しっかりしなければ。
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