この思いを迷宮に捧ぐ
「ここからは大丈夫か?」

「大丈夫です」

坡留がそう答えると、晁登は千砂をそっと地面に下ろした。


「また、急いで次の公演の準備をするよ」

それは、次に会おうという約束。そして、さようならの代わりの挨拶。


嫌々と幼子が言うかの如く、首を横に振った千砂に、坡留と晁登がはっとした。

帰りたくないと、その顔が告げていて、瞳は今にも涙で満ちそうだった。



「保健大臣が収賄の疑惑で追われています。間もなく捕らえられて、宮殿に連れて来られるでしょう」

坡留は心を鬼にして、その事実を伝える。

今は、女王陛下としての立場を思い出してもらわなければならない。

「そう」

千砂の揺らいだ表情がすっとかき消えて、坡留はこくんと息を呑む。千砂の気持ちを切り替えることに成功したが、それは千砂自身にとっていいことだったのだろうかと自問しながら。



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