この思いを迷宮に捧ぐ
「もう、そんな時期になったか」


ポツリとこぼす晁登の横顔は、思いがけず静かなものだ。

「俺が、千砂のお荷物になるくらい、旗色が悪いの?」

だから、この人は困るのだと、千砂は思う。


「いいえ。結婚を勧められてるからよ」

私の状況など、気にかけさせてはならない。私のことなど大嫌いになって、さっぱりした気持ちになってから、命の危険などない人と恋に落ちてほしい。

そう思うのに、彼がどこかの女の子と恋を育む場面を思い浮かべただけで、千砂は気分が悪くなるのだ。


「そっか」

そう呟く晁登は、やはり千砂の予想外に落ち着いていて、また、想定以上に寂しそうに見えた。

「俺がなんとかする」と飛び出してしまうか、「納得できない」と詰め寄るかのどちらかだろうと考えていただけに、かえって千砂の胸はずきずきと疼く。

あなたと別れて結婚などしたくないと、叫びだしたい衝動に駆られて、千砂は必死に息を殺す。

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