この思いを迷宮に捧ぐ
扉を開けて、翠が部屋に入ってきたからだ。

「何って、ここから入れって、外のやつらに命令されたけど」

「……」

そう言えば、今千砂が寝室にしているこの部屋には、続きの間があることを思い出す。父の代にはそこに母が寝起きしていた。

自分が即位してからは、仕事部屋と寝室として使っていたから、千砂はそのこともすっかり忘れていた。


つまり、ここは、廊下を通らずに夫婦が行き来するための扉だったのだ。

「こんなに遅くまでよく起きてるな。俺、ちょっと寝てたのにさ、起こされたんだけど。マジ迷惑」

緊張感の欠片もなく欠伸をする翠に、千砂は呆れる。


昨日の朝からずっと緊張の連続だったはずだ。内外さまざまな立場の人の目にさらされ続けた1日なのだ。まして、今日は、危ない事件があった。

「毒を盛られた日の夜に、のんきなものね」

あのワイン。

魚はともかく、ヒトに対してどれほどの毒性を持つものかはわからないが、何も起きないはずがない。


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