この思いを迷宮に捧ぐ
ふっと翠が楽しげに笑うから、千砂はどきりとした。

「慣れてるからな。あれで眠れないとは、あんたも幸せなんだな」

幸せなはずがない、と言いかけたが、千砂はやめにした。

翠のこれまでの人生が、垣間見えて。


不意に翠の手が頬に伸びていることに気付いて、千砂ははっとした。

「何?男嫌いなの?」

咄嗟に千砂がはねのけた手をあっさりと引っ込めて、翠はじっと彼女を見下ろす。男も嫌いだが、むしろあなたが嫌いなのだと、喉まで出かかったその時。


「嫌いでもいいけど、職務を放棄するのはどうなわけ?」

動揺も見せず、ただ翠は不思議そうな顔をしているだけだ。

「...職務...?」

この場にそぐわない単語に注意を引き付けられてしまって、千砂は翠の目を見つめ返す羽目になる。

「『初夜』っていう職務」

「はい?」

翠が何を言っているのか理解できない千砂に、翠は畳み掛けてくる。

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