この思いを迷宮に捧ぐ

あれきり、祖国であるはずのこの国に帰らない人。


「千砂」

唇が、柔らかくその声ごと受け止めるその感触さえ、千砂に錯覚を起こさせる。

口付けはやや強引で情熱的でどこか荒っぽく感じられ、大抵仕事上の取引で、儀式的にキスを交わすときの翠とは別人のようだ。

そう、まるで、初めて地下牢でキスをしたときの晁登そのもの。

「千砂、好きだ」

いつの間にか、翠の手のひらは、千砂の目からはなれていたけれど、彼女は目を開けようとしない。
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