この思いを迷宮に捧ぐ

あれほど口に出すまいと思っていた言葉を、状況に任せて口に出したら、翠はその気持ちが溢れるのを感じて目眩がした。

もう演技と本気の境目がぼやけてわからない。


「愛してる」

そう呟いても、千砂は抵抗ひとつ見せず、一心にキスの雨を受け止めている。

その固く瞑った瞼の下から、切れ間なく涙がこぼれ続けていることに、気付いて、翠はわずかに躊躇した。

このまま晁登を演じ続けていいのだろうかと。

何となくこんなふうかと、晁登の印象から推測でとった行動が、あんなに頑なだった千砂の心をこじ開けてしまったらしい。
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