この思いを迷宮に捧ぐ
宮殿内だとはいえ、やはり採掘場は危険だったのだ、と千砂はようやく悟るが、もう後の祭りだ。坡留がやけに警戒していたのは、虫が知らせたのかもしれない。

早鐘のように打つ心臓音が、破滅へのカウントダウンのように思えて、千砂はまだ冷静な頭を取り戻すことさえ叶わない。



「まさか…」

耳元で囁かれた声に、千砂は息が詰まった。

一時期、あれほどまでに、身を案じていた人とそっくりだったから。

その「まさか」は、同時に千砂の心の声となって、こだまする。まさか、まさか、まさか。


「静かにしてくれるね?」

今度は、はっきりと聞こえる大きさで、落ち着いた声がした。その穏やかな口ぶりが、確実にあの人のものだと千砂は確信する。

こくりと頷いてみせると、ようやく彼は腕を解いて、離れた。

恐る恐る千砂が振り返ると、あの事件以来、見かけることさえなかった岳杜(がくと)がそこに立っていたのだった。


「元気に、してたの?」


生きていた。

そう思うことしかできなかった。痩せてやつれたことが、暗闇でも見て取れるのだ。

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