この思いを迷宮に捧ぐ
「元気だよ。君の方が、よほど辛そうだ」

どくり。

千砂の胸の古傷が痛む。

いつも、私のことを気にかけてくれた、貴重な人。


「平気よ」

そう答えてみても、虚しい気持ちが胸を満たして、千砂は黙り込んだ。

元気だとか、平気だとか、本当はどういう状態のことを言うのだろう。互いに元気でも平気でもないことが見て取れるのに、上辺だけで取り繕うような挨拶を交わすだけの関係性が、千砂には切なく感じられた。

静寂に包まれ、ぼんやりとかすかな明かりだけが存在感を示す中、千砂は次第に通常通りの思考回路を取り戻してゆく。


明かりを捨てて坑道に入った者だけは、実はこうして壁面がわずかに光るということを知っている。そのことを、千砂は父から聞いて知っている。代々、王族にだけ伝わっているはずだった。


では、岳杜が灯りを持たずにこうしてこの闇の中にいることができるのは、なぜだろう。



「どうやって、この中へ?」
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