この思いを迷宮に捧ぐ
「陛下に触れるな。投獄されても助けてやれないぞ」

岳杜が静かにそう窘めるが、背後の男は力を緩めない。

「こんな状況じゃなければ、この綺麗なお顔を直接拝む機会すらないものですから。いっそのこと投獄されてでも楽しみたいくらいだ」

「やめるんだ」

辛抱強くそう続ける岳杜に、千砂はやっぱり落胆するのだ。


「さあ、戻ろう」

出来の悪い子供を説得するかのように、岳杜はそう続けるだけだ。

気味の悪い笑い声がそれに答える。

「何をおっしゃいます。護衛も連れていない今がチャンスでは?」

何のチャンスかは、岳杜にはもちろんのこと、千砂にさえよく理解ができた。



暗殺。



「いい加減にするんだ。それ以上」

とうとう岳杜が手を伸ばした時、千砂は背後からいくつもの足音が近づいてくるのを聞いた。

震える膝を隠しながら、千砂はただ、状況を把握するだけで精一杯の、ぎりぎりの精神状態にあった。



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