この思いを迷宮に捧ぐ
その家の玄関先で、乳母の孫だという女の子が、「祖母はとっくにあなたをお迎えに上がったはずです」と青ざめて答えたのを最後に、僕の記憶はあまり鮮明なところはない。

彼女とともに、一本の蝋燭だけを頼りにして、暗闇に沈む宮殿の廊下を急ぐ間の、あの不吉な焦燥感。



わずかに開いたままの君の部屋の扉。

天蓋の下のベッドに、泣き伏す君。

そしてその下の、まだ鮮やかな赤い染み。

それから、こちらをゆっくりと振り返った君の、…傷だらけの瞳。



焦燥感が恐怖に変わり、最後に絶望となって闇に消えた。

そのことだけは、はっきりと覚えているのに。



僕は、あれからどうやって、あの部屋を出たのか。

そして、いつの間にこんな年になったのだろう。どうやら君は、今年で23歳になったらしい。ならば、僕はもう27歳になったはずなのに。

あれから7年もの間、僕はどこで何をしていたんだろう。



ああ、ついさっき、君に触れた手のひらだけが、確かな熱を持って、今でも何かを僕に訴えかけてくる―――。




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