この思いを迷宮に捧ぐ
「女神だ。俺にとって」

見上げる晁登の瞳は、いつか、俳優の仕事について「これほど楽しい仕事はないと思ってる。それを、邪魔されたって、屈したりしない」と熱く語った日のことを、千砂に思い起こさせた。


「千砂」


その顔で、その声で、その名を呼ばれたら。


「晁登」

頭で考える前に言葉が出るなんて、子どもの頃以来なのに。

まるで、自分が苦手としている恋だとか愛だとかを扱う演劇の一場面のようなシチュエーションで。

冷たいひんやりした晁登の手が、頬に触れた瞬間に、千砂は思わず泣きそうになる。



―――私はこの人が好き。



雷に打たれたように、千砂は天からの啓示を受け取った。


頬をなぞった指が髪の毛の隙間をくぐり、晁登がキスをしたとき、ようやく千砂は自分と晁登の体がぴったりとくっついていることに気が付いた。
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