この思いを迷宮に捧ぐ
こうして千砂は、晁登の家の前に辿り着いたのだった。
人に尋ねながら探すしかないと思っていた千砂は、坡留があっさりと目的地に連れて来てくれたからこそ、困ってしまった。
…本当に、来てしまった。
この中に、彼がいるんだろうか。
そう思うだけで、動悸が激しくなってきて、千砂は動けなくなってしまう。
「……何をしてらっしゃるんですか」
小声で責めるように坡留が吐く言葉も、千砂の足を動かすことができない。
どのくらいの間、もじもじしながら葛藤を続けていたことだろうか。
不意に目の前の木のドアが開く気配がして、坡留は咄嗟に近くに身を潜めた。
「…何か?」
中からフードをかぶった女の子が出てきて、小さな暗い声で尋ねた。
すっかり出遅れた千砂は、その場に立ちすくんだままだった。
ただ、フードの下からちらりと覗いた、女の子のその瞳が晁登と同じ色をしていたから、千砂は彼女が彼の妹であることを悟った。
この子が、晁登の話しに出て来た女の子。汚職のまかり通る業界の、被害者…。