この思いを迷宮に捧ぐ
招き入れられた部屋の中でも、胸がいっぱいで、何も話しかけることができなかった。
最後に宮殿から解放された時よりも、晁登の顔色が良くなったことだけで嬉しくて、その瞳で見つめられるだけで言葉が出なくなってしまった。
「ここまでよく来れたね」
晁登の方も、なめらかには言葉が出てこない。千砂の気持ちを知るまでは、そんなこともなかったのに。
彼女は一国の女王で、こんな下町に気軽に出歩けるはずはないのだ。
感情を表すことがほとんどなく、またその顔立ちのその美しさのせいもあって、千砂は「仮面のクイーン」の異名を持つくらいの存在だ。
そんな千砂が、ここに辿り着いたことが、奇跡のように思えてならない。
「そうね。今でも信じられない」
千砂が、小さな声でそう答えた。
目立たないよう、美しい金色の髪を飾り一つない紐で縛っている。いつも以上に化粧っ気のない肌なのに、頬に赤みが差しているのは、走ったせいだろうか。