この思いを迷宮に捧ぐ
「ありがとう。いただきます」

いい香りのするお茶は、千砂の体を温め、ゆっくりと緊張を溶かした。



「来週、煌に復帰するんだ」


晁登は、少し痩せたものの、その瞳は明るさを取り戻していて、確かにまた仕事に戻ってもいい頃合いなのかもしれないと、千砂は思う。

「見に、行きたい」

千砂が思わずそう呟くと、晁登は心底うれしそうににこりと笑った。


「君の嫌いな恋愛ものの公演だけどね」

…確かに、苦手だ。

「脚本家に、歴史ものやミステリーを書いてくれるように頼んでみる」

「え」

「それなら最後まで夢中で見てくれるだろう」

「どうして」

自分の好みを、なぜかすっかりわかっている様子の晁登に、千砂はびっくりした。


「舞台からも、君の姿はよく見えるよ」

「嘘」

千砂が見に行く国立の演劇場は、1万人を収容できるのだ。たったひとりの姿が、演じ手の目に入るわけがない。

< 76 / 457 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop