この思いを迷宮に捧ぐ
「嘘じゃない。当たってるだろう。ずいぶん前から、君を見てたから」

「嘘…」

「嘘じゃない。とっくに好きだったって言っただろう」

「あ」

「とっくに」のところが、そんなに前の話だとは思ってもみなかった千砂は、それでもその台詞を地下牢で聞いた記憶だけはあって、もう嘘だと言うことができなくなった。


「また楽屋まで来てくれたら嬉しい」


ふと、晁登の声から楽しそうな気配が消えて、千砂は彼の顔を見つめ直した。

カップを持ったままだった、千砂の手の上から、晁登の手のひらが千砂の手をすっぽりと包んだ。


だめ、これだけで心臓がどうにかなりそう。


「いや、正直に言う。お願いだから、来て」


晁登の表情が切実なものに見えて、千砂は胸を打たれる。


「君が帰る前なのに、もうまた会いたい」



千砂は、晁登も自由に宮殿に出入りできないのであって、こうして会うのが難しいことを辛く思っているのだと理解ができた。


「私も」

そう答えるだけで、もっと溢れている感情のどれもこれもが、言葉にならなかった。
< 77 / 457 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop