この思いを迷宮に捧ぐ
「ごめん、自制が利かないかも」

唇が軽く触れたままで、急いで晁登がそう告げる。


意味を考えるべく言葉を反芻する間もなく、千砂は晁登が唇を吸い上げて来る感触に、頭が真っ白になってしまった。



地下牢でも、長いキスをした気がする。

だけどあれは、お互いに暗い高揚感の中で、夢か現かという非現実的な環境の中だったから、ある意味では緊張の少ない状況だったとも言える。

だけど、これは、恥ずかしい。



千砂にとって、国立劇場の楽屋は、いわばテリトリー内の場所だ。

幼いころから、父とともに訪れることもあったし、その記憶の中の状態から大きな変化はないこの部屋で、なぜか“恋人”とこんな状況になっている。

お互いに惹かれ合った男女なら、こういうものなのだろうか。
ふたりでいると、くっつきたいものなのだろうか。
こんなに何回も口づけするものなのだろうか。
こんなに長い時間…。


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