この思いを迷宮に捧ぐ
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黄生が晁登のことを誰かに話すかもしれないと、千砂は思っていた。

が、あれから1週間が過ぎようとしているのに、彼女の身辺には特別な変化はなかった。


「君は、目が悪いんだね」

水が貯まった龜を持ち上げるところだった彩菜は、はっとして、危うくそれを割るところだった。

「それは、ずいぶん他人を避けることと関係してる?」

黄生に向き直って、彩菜はようやくそこに彼がいたことに気がついた。

わずかにでも動いていれば、人だと認識することはできたはずだが、黄生はじっとしたままで、彩菜の様子を見ているだけだったのだろう。


関わりたくない。

その声が先週聞いたものだということもわかっていた彩菜は、水を諦めて慌てて踵を返した。


「ちょっと待って」

手首を掴まれて、彩菜の心臓は不穏な音を立て始めた。

「何か言ってよ。声を聞いてみたいだけだ」

彩菜は怯えた表情で、ふるふると首を横に振るばかりだ。

美しい瞳の水色は、兄の晁登より淡い色だと思いながら、黄生はみとれた。



「黄生、やめなさい」

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