この思いを迷宮に捧ぐ
よく聞き慣れた凛とした声が響いて、黄生の高揚した気持ちが削がれた。
「怖がってるでしょう」
見開かれた水色の瞳には、はっきりと涙が浮かんでいて、黄生も仕方なく手を離した。
もっと、触れていたかった。ひんやりとして冷たいけれど、柔らかくて小さな手。
手を離した途端、弾けるようにして、彩菜は楽屋に消えてしまった。
「なぜ黙っているの」
なのに、演芸場で鉢合わせたから、千砂は仕方なく黄生に尋ねた。
「僕の口から言わなくても、近い内にバレると思うよ?公務以外で外出しない千砂が、度々所在不明になるんだからさ」
いろいろと不愉快な指摘を含んだ黄生の答えに、千砂は閉口する。
「なら、どうしてここへ?」
「この前来たとき、彼以外に人の気配があったから、偵察」
「...彼女に関わらないで」
「なぜ?」
「巻き込みたくないから」
「渦中の人になる覚悟はあるんだ?」
「...とにかく、あの子は駄目よ」