この思いを迷宮に捧ぐ
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彩菜は、楽屋の扉が並ぶ廊下の果てで、見覚えのある背格好の人間が立っていることに気が付いた。

彼女の表情を読み取ったのだろう。

「待って。何もしない。けど、逃げるなら捕まえる」

逃げられる。かといって、触れたら今以上に怯えるだろう。

黄生はそう考えながら必死に言葉を選んだ。


ぎくりとした様子で、彩菜は足だけは止めた。

何もしないと言いながら、捕まえると脅している黄生に、どう対応していいのか迷った。


それと同時に、彼の姉であり、自分の兄の恋人でもある女王が、長い間ここに来ていないことが気がかりでもあり、彼が現れるのは何か彼女からの伝言でもあるのかもしれないとも考えた。


「ごめん、僕は君が気になって仕方がない」

黄生は顔を歪めた。美少女と間違えられる容貌だから、まるで女の子が泣くのを堪えているように見える。

彩菜には、そこまで細部がわからないが、彼の声が、切羽詰まって聞こえるのは明らかだった。
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