絶対王子は、ご機嫌ななめ

「ごゆっくり……か」

洗面室の壁にもたれかかると、大きく息を吐く。

政宗さんの家に来てから、ずっと緊張しっぱなし。やっとひとりになれて、本当に“ごゆっくり”出来そうだ。

浴室に入れば、バスタブにはお湯が並々に張ってある。疲れを取るためにはゆっくり半身浴がいいんだろうけれど、裸になった自分の身体を見て『このキズじゃ、ちょっと無理か』とあきらめた。

とくに膝小僧のキズは、範囲も大きくキズも深い。康成先生に手当してもらってガーゼが被せてあっても、お湯が傷口に沁みそうだ。

せっかくお湯を張ってもらったのに申し訳ないけれど、シャワーだけで済まそう。

そう決めると、手早くシャワー水栓のハンドルをひねる。シャワーヘッドから勢いよくお湯が出て傷口を直撃すると、しばらくしてズキンと痛みが走り顔をしかめた。よく考えて見ればキズは膝だけじゃなくて、身体中のアチコチに点在している。

「それにしても、派手に転んじゃったなぁ。ホント、いくつになっても鈍くさい……」

そう自己嫌悪に陥りながらも全身を洗いきゅっと絞ったタオルで身体を拭く。結局“ごゆっくり”出来ないまま、さっさと浴室から出た。



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