ミク。
まだ体力が戻っていない為、自分が奏でた激怒の大音声にクラクラと目眩を起こして気分を悪くしている彼はそれでもただ黙って毎回武道会や危険な討伐に行かせている珠里夜をきつく睨みつけていて、子供ながら自分にとっての大切な者の身を案ずる姿勢を感じさせたが、やはり子供なだけに大人と大人になりかけつつある少年の心の内などはまったくと大口を開けて云える程分からないようだ。

《~あれをご覧なさい》

そう云って珠里夜は綺麗に折り畳まれ、その上にも綺麗に小さく整頓された浴衣や帯が乗せられて居間の一番奥の邪魔にならない場所に移動させられた布団を怒ったままの不機嫌な陽菜に指で指し示して見せつけて、彼がそれをよく確認したのを確かめると、次にこう言った。

《春。あれはあの子がああしていったモノです。》

【…‥?】

《起きていて知ってると思うけど、私は一切畳んで行け、片付けてから行けなんて云っていません。でも、だったら何故、あの子はこんなに礼儀を払ったんだと思う?》

【…………分かんなぃ】

《それはね。あの子…冬はもぅ、大人だから。》

一瞬泣いているような響きを含んだ珠里夜の声に、陽菜は驚いたように彼女を見上げる。…彼女は、泣いてはいなかった。けれど、泣きそうな瞳をして、綺麗に整頓されている布団や浴衣類を見つめていた。そしてそこには、何かしてあげたくても出来る事は何も無く、逆に、してあげない事こそが今の自分に出来る気遣いや優しさなんだという大人の心の内を静かに伝えて来た。
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