ミク。
【冬、お待たせ。】

不意に名前を呼ばれて振り向くと、珠里夜に教わって台所でずっと初クッキー造りに奮闘していた春が焼き立てのそれを沢山持てるだけ持って、落とさないように細心の注意を払いながら自分が居る居間まで一人で運んで来てくれる所だ。

「持ってあげるよ」

【ダメっ!私が運ぶから良いの。冬はお仕事で疲れてるんだから、ゆっくりしてるの。】

なんのつもりなんだか、まったく…。と思いながら別に疲れているワケでは無かったが、春が言ってくれた言葉が可愛くて、だから従ってやっていると、まずはクッキー。次にふかふかの座布団二組。次にクッキーの欠片で木目の美しい床を汚さないようにする為の広いシートと、最後に絞りたてのオレンジジュースを持って来てくれて、再び口を開く。

【お仕事お疲れ様です。あと、今日は、私と冬の一年記念日だから、お礼にクッキー造ったよ。良かったら一緒に食べて?】

「ありがとう、春」

特に何かをしてあげたつもりは無くて、むしろお礼を言ってしかるべきは自分なんだと思いながら、小さいながらちゃんと気遣ってくれる春に簡単なお礼を云うと、冬はさっそく自分の為に頑張って朝から造ってくれていたらしいクッキーを口に運んだ。

「頂きます。」

【うん!】
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