ミク。
しかしそのクッキーは初めて造ったというだけあって初心者感満点だ。…なにせ、どれを取ってみても焦げめがキツイし、粉の分量か何かを何処かで間違えたらしく?とにかく硬い。しかも一部割れていたりで、味や見た目的な感想を云うならコンビニで買った方が遥かに美味いし、専門店で売っている物には到底およばない品物なのだ。が、

【…‥‥ごめんね…‥】

「ん?」

【次はもっとキレーに造る…今は、こういうのしか造れないけど、次は…】

と、半泣き顔で謝って来たかと思う間も無く、結局声をあげて泣いてしまった姿にトクン…と、胸が暖められる感覚に襲われた冬は一旦食べ欠けのクッキーを起き、傍で涙している春を初めから空いていた左の手で手繰り寄せ、より至近距離にさせると、少年から巣だつような甘い、けれど何処か色っぽいセクシーさを感じる言い回しである事を問い掛けた。

「姉さん、今、何してるか知ってる?」

春は、急に、これ以上無いくらいの緊張に襲われた。…だって、今ここに居て自分を例えようが無い程の色気で見つめているのは、いつもの優しくて温厚なだけの冬じゃない気がした。良く分からないけど、彼は、いつもの冬じゃない!

【‥御祝いのケーキ…あと、夜食べるの買ってくるって…‥】

「…‥‥そぅ。」

何がなんだか分からないという表情を見せる春の白い陶器色の頬をより一層左手でくるむと、冬は衝動のまま幼い桜色の唇に自分の唇を重ねた。その唇はとても柔らかく、甘い菜の花の香りがして、密の味がした。
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