グッバイ・メロディー


「ふーん、あっそー」


べつにわたしだって、記念日をものすごく大切にしたいタイプというわけでもない。


それでも、1年目というのはけっこう大事かと思っていたよ。

せっかく土曜日に当たるし、どこでデートしようかな、なに食べようかな、なんて勝手なプランまで妄想しちゃうくらい。


べつに、いいけど。

こうちゃんにとってその日がその程度なら、わたしにとってもその程度にしておくから。


「……あ」


突然なにかを思い出したのか、はっとしたように息を漏らすと、こうちゃんは短く息を吸った。

息をのみ、大きく鳴った喉の音がこっちまで聞こえてきた。


「あ」だって。
本当に忘れていたんだ。


「季沙」


なんだか機嫌をとるみたいな響き。

それを聞いた瞬間、なんとか収められそうだった感情が、さらにむかむかしてどうしようもなくなる。


いまさらなにを言ったってもう遅いよ。

ていうかもう、なんにも言わないでほしいよ。


「ごめん、季沙」


そのゴメンはとても逆効果なんだよって、なにかの教科書にでも教訓として書いておいてくれたらいいのに。


「べつにわたしなんにも言ってないよ」

「ごめん」


わざとそっぽを向く。


背後で、こうちゃんがスタンドにアコちゃんを置く気配がした。

きっと数秒後、彼はこっちにやって来て、うしろからわたしを抱きしめると、ダメ押しの「ごめん」を言うのだろう。


考えるだけでいやだな。

そんなことをされたらもう、修復不可能なほどにむかついてしまう気がする。

< 448 / 484 >

この作品をシェア

pagetop