グッバイ・メロディー


「わたしも……最初は『こうちゃん』だったって、お母さんが言ってた」


不思議なことは本当にあるのかもしれない。

だって、わたしの人生はこうちゃんで始まってるんだなあって、それを聞いたとき、わたしも同じことを思ったんだ。


おかしくて、なんだかとても恥ずかしくて、笑ってしまったのを覚えている。

中学3年のころの話。


「あの子って父親に似てほんとに口下手だし、なにかあると黙りこむタイプだし、かと思えばぼけっとした、抜けすぎてるところも多々あって。これまでも、これからも、きっちゃんをやきもきさせてきたことはたぶん数えきれないほどあるよね。良くも悪くも誤魔化さない男だし」


きっと、いつまでも清枝ちゃんだけには敵わないだろうな、と思った。

こんなにも深くこうちゃんのことを理解して、包みこんであげられるのは、この人が彼をこの世に産み落としてくれた張本人だからだ。


「それでもずっとあきれないで、洸介の傍にいてくれて、ありがとう」


そんな偉大な存在に、ふいうちでこんなこと言われて、ずっと張りつめていた心を、トントンと優しい力でノックされたような感覚。


「きっちゃんがいてくれたから、洸介はすごく好きだった父親を失っても“さみしい”の渦に飲まれないで済んだんだと思う。いつも甘えっぱなしでごめんね。ありがとうね」


ぽろぽろ、冷たいようであたたかいしずくが、頬を伝って落ちていくのがわかった。

< 455 / 484 >

この作品をシェア

pagetop