私がいた場所。
元治二年二月
「伊東さん達が入隊してくれたおかげで随分と活気づいてきたが、屯所が手狭になってきたと思ってだな」
「屯所を変えようって…?」
「ああ」
朝餉を終えてみんなが集められたかと思うと屯所移転の話だった。確かに伊東さん達が入隊してから急に人が増えて屯所が狭く感じていた。これからもまた増えるかもしれないということを考えると広いところに移ったほうがいいのだろう。
「目星はついてるんですか?」
「広くて我々のようなあまり好かれていない存在を受け入れてくれるところなどあるのでしょうか」
その疑問はきっと誰もが考えたことで、移転先を考えるのに苦しい理由であった。
「…西本願寺で行こうと思っている」
だから土方さんのこの言葉にはみんな意表を突かれたような表情だった。事前に話していたのか近藤さんだけは驚いていなかったが。
「西本願寺って…長州の奴らがたまってるところだよなァ」
「てことは坊主たちも長州贔屓ってことか」
「本気ですか?土方さん」
仕事で冗談なんて言う性格じゃない土方さんはやはりさっきの言葉を取り消すなんてしなかった。
「…いいと思うがな。長州封じにもなる。それに立地条件も悪くないだろう」
「しかし僧たちが受け入れるかは…」
「だがそこ以外にどこかあるだろうか」
「それは…。力で押さえつけるのですか?」
「向こうの出方によるだろう」
ぎりっと山南さんが歯ぎしりしたのがわかった。下を向いているから表情は見えないが、彼が顔を歪めているだろうということはわかる。山南さんもわかっているからだ。今回のことは一人が反対しても仕方のないことを。
だが彼も少し期待しているのだろう。昔からの仲間に、伊東さんではなく自分を選んでくれないか、と。
誰も話さなくなったことに気まずさを感じたのか近藤さんがわざとらしく咳払いをした。
「ともかく、移転は西本願寺というという方向で進めておこう。他に何かいいところがあればいってくれ」
みんながぎこちなく頷く中、山南さんは立ち上がるとさっさとでていってしまった。それを追いかけるようにして出て行った伊東さんにつづいてみんな出て行った。
私も足に少しの痺れを感じながら部屋を後にした。