私がいた場所。
「椿はんは、ええ人おりまへんの?」
「ええ人ねぇ…恋人ってことだよね、うーん…いないかな」
「へぇ…こんな綺麗なお方なのに」
「椿はん、おもろいしなぁ。市中でも声かけられへんの?」
「あんまり外に出ないからね、女の子とこんなに話したのも初めてかも」
ここに顔をだしたのは初めてだからか物珍しそうに私を見る芸鼓さん達にお手洗いだと告げて席をたった。
足元を照らす灯りを頼りに廊下を進んでいくけれど、そういえばどこにあるのかわかんないやと思った。お酒のせいか思考回路が単純になっていてまぁいいか、見つかるだろうとまた足を進めた。
少し入りくんだ廊下を進んだところで声が聞こえた。多分女の人の声だ。なんとなく嫌な予感がしたけれどそれをみたいと心のどこかで思ってしまうのも人の性。ゆっくりと音を立てないようにほんのり灯りが漏れている部屋までくると声がより鮮明に聞こえた。
「う、わぁ…」
手で抑えた口からでたのはそれだった。
なんだか一気に酔いが覚めた気がする。まさか他人の情事中に出くわすとは。しかも知らない人ならまだ良かったものの…。
襖に浮かび上がる影を見てくらりとした。
「原田さんも相当なプレイボーイ…」
あぁ、もうこのまま帰ってしまいたい。
聞き耳をたてるのも悪いと思ってその場を後に部屋に戻ったけれど正直もう酔える気がしなかった。
また寄ってきてくれる女の子達ともさっきみたく話すというよりも次は誰が餌食になるんだろうという哀れみの目で見るだけになってしまった。
まぁ、それが仕事の一部とみる人もいるし原田さんもかっこいいからうれしいっていう人もいるのだろうけど。




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