美狐はベッドの上で愛をささやく

わたしが決意した今日は、紅さんのお仕事先がお休み。


時間はお昼前の11時。


紅さんが、わたしの体調も良くなったからって、回復のお祝いで今から映画館に連れて行ってくれるんだ。

映画館なんて、テレビの中でしか見たことが無かったから、どんな感じなのかドキドキする。

それに、紅さんと一緒に外を出るのもはじめてだからとても楽しみ。



わたしが紅さんと過ごすのは今日で最後だって決めたのは、楽しい思い出を残そうと思ったから。


この先――ひとりになったわたしは、紅さんと出逢う前と同じ状況になるだろう。


それに耐えるだけの思い出が欲しい。



そう思っていた矢先、紅さんからどこか行きたい場所があるかって訊(キ)かれた時はとても嬉しかった。


紅さんと別れた後のことを考えると、とても……寂しくって、この身が張り裂けそうなくらい苦しいけれど、それでも大切な人を穢すよりはずっといい。


ずっとマシ――……。


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