美狐はベッドの上で愛をささやく
誰の役にも立てないと思う。
だから、小さく首を横に振った。
「頼む! 君にしかできないことなんだ。妻、妻を……甦らせてほしい」
倉橋さんはわたしの両肩から手を外して、座布団から降りた。
何をするのかと思ったら、突然畳に額をくっつけ、土下座をする。
それは、わたしが今まで見たこともない倉橋さんの必死な姿だった。
いったい、どういうことなんだろう。
「倉橋さん?」
重たい口を開いて尋ねれば、倉橋さんは顔を上げて、遠い眼差しを向けながら、わたしに語りはじめた。
その瞳は、とても優しく、そして……悲しそうだった。
「実は、私には結婚を約束した最愛の女性がいたんだ。
だが、彼女は結婚前夜、交通事故に遭(ア)い、意識不明のままでこの世を去ってしまった。
君なら、妻を生き返らせることが可能なんだ。
どうか、私に力を貸してくれないか?」