美狐はベッドの上で愛をささやく

なんでも倉橋さんは、『傀儡(クグツ)』という術で亡くなった人を腐敗させずに、当時のままにしているらしい。



「紗良(サラ)君、本当にいいんだね?」


念を押す倉橋さんに、わたしは無言でうなずき、横たわる女性の隣にしゃがみ込んだ。


わたしの魂をこの女性に明け渡す術は知っている。


霊力を解放すればいいんだ。



わたしは左手を魂があるお腹に、右手を横たわる女性のお腹に置いて、目をつむる。

 



これで、紅(クレナイ)さんとお別れする……。







そう思うと、やっぱり胸がギュッと締めつけられる。


心が痛い。


あともう一度、紅さんの顔が見たいと、愚(オロ)かな願望を抱いてしまう。



わたしの意識が女性から逸(ソ)れると、わたしの右肩に倉橋さんの手が乗った。





――――ああ、そうだ。


意識を戻さなきゃ。


紅さんとは、もうお別れした。


この女性を助けるって、倉橋さんと約束したじゃない。


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