美狐はベッドの上で愛をささやく
だけどおかしなことに、わたしの体は、少しも激痛を訴えてこない。
それに何より、地面には倒れない。
いったい何が起こっているんだろう。
そっと目を開けてみれば、そこには……。
象牙色の肌に、襟足まである少し眺めの綺麗な茶色い髪。
それと流れるような目を覆う長いまつげ毛。
吸いこまれそうな色をした、赤茶の瞳が、わたしを映していた。
「バッカヤロー! 危ねぇだろうが、気をつけろ!!」
大きなトラックの運転手は、放心状態のわたしに向かって、怒鳴り声をまき散らしながら、通り過ぎて行った。
「大丈夫? 怪我はない?」
目の前のその人は、薄い唇を動かし、わたしを気遣う。
中性的な声質。
長いまつ毛に少し大きな目。
女性のようにも見えるけれど、この人は男性だ。
だって、わたしを横抱きにしている腕はたくましいし、肩幅だって広い。
年齢は、たぶん26歳くらい。
……とても綺麗な男の人。
わたしは目の前にいる男の人に返事をしないまま、男の人に見惚(ミト)れていた。