美狐はベッドの上で愛をささやく

すると、目の前の彼が口角を上げて、クスリと笑った。


その笑顔は華やかで、それでいて、とても優しいものだった。





……トクン。


男の人の微笑みを見たわたしの胸が、意味もなく高鳴る。


こんな感情ははじめてで、少し戸惑っている反面、とても心地良く感じる。




……久しぶりだった。


わたしを見ても、怖がらない人がいるっていうことが……。



そして、わたしを抱きしめてくれる両手のぬくもりも……。


父とは違う、甘い香りがわたしを包む。


その感覚は、とても優しくて、とても穏やか……。




父がいなくなってから、ひとりぼっちになった時間は、わたしにとって、とても長く、とても辛い日々だった。




眠らないのにも限界がある。

だから、自分が置かれている状況も考えられず、目を閉じていった……。



目を閉じる寸前、女の子がいた崖の上を見ると、女の子はもういなかった。


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