美狐はベッドの上で愛をささやく

「あのっ!!」

早く帰らなきゃ迷惑がかかってしまう!!

わたしは立ち上がる男の人と一緒に、待ってという意味を込めて立ち上がったのに……。



「紅(クレナイ)」


男の人はそう言うと、わたしの肩に手を乗せ、ベッドに腰かけるよう、態度でうながした。



「……へ?」


「それがわたしの名前だよ?」

告げられた言葉の意味がわからず、聞き返すと、男の人はそれが何を意味するのか、教えてくれた。



「あ、わたしは紗良です。美原 紗良(ミハラ サラ)」

男の人が名乗ってくれたから、わたしも名乗らなきゃ。

反射的に名前を言ったわたし。

だけど、今、名前を名乗り合っている場合じゃない。

わたしは今すぐ、ここから出なくちゃいけないわけで……。


それなのに……。


「紗良ちゃんか……。名前も可愛いね」

紅さんは、「よろしくね」と付け加え、呆然としているわたしを尻目に、部屋から出て行ってしまった。


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