美狐はベッドの上で愛をささやく
「紗良ちゃん?」
そんなわたしの様子を、紅さんは気遣うようにして窺(ウカガ)ってくる。
視線が重なってしまった。
……ドクン。
わたしの心臓が、また大きく跳ねた。
わたしは苦しくなる気持ちを無視して、にっこり笑う。
もう、心配しなくてもいい。
そういう気持ちを込めて――……。
それなのに、綺麗な顔をしている紅さんは眉間に深い皺をつくってわたしを見つめてくる。
だからきっと、わたしの笑顔は失敗したんだ。
「ごめんなさい。なんか、取り乱しちゃって……。もう、帰ります」
わたしはベッドから腰を上げた。
……なんだけど、紅さんの手がわたしの腕を掴んで離さない。
「もう帰ってしまうのかい? あ、そうか。君の家族が家でご飯を炊いて待っているものね……」
ズキン。
その言葉に胸が痛んだのは、わたしを待っている家族はいないから。