美狐はベッドの上で愛をささやく
わたしを恐怖へと突き落とす『彼ら』は、そんな優しい目をしない。
だから、『彼ら』じゃない。
よかった……。
わたしは詰めていた息をそっと吐き出すと立ち上がり、頭ふたつ分ほど背の高い彼と向かい合った。
倉橋さんは、父の友達の息子さんで、霊媒師さんをしている。
年齢は詳しくは知らないけれど、たぶん40歳前後だろうと思う。
ここは薄暗いから良く見えないけれど、黒髪の中に少し白髪が混ざっていて、それが一段と優しそうに見える。
どうしてわたしが霊媒師の倉橋さんと知り合いなのかというと、これには少し事情がある。
わたしは、あまり大きな声では言えない恐ろしい体質を持っているから……。
「驚かせてしまったようでごめんね。清人さんのこと……さぞかし辛いだろうね。何もできなかった私を憎んでいるかい?」
そう言う倉橋さんも、泣いていたみたい。瞳が悲しそうに光っていた。
彼も父の死に心を痛めているひとりだ。